堀田は玲に、何をどのように説明したというのだろうか？ 　逃げ出した時、自分と大雅を引き留めなかった彼だけど、だからといって好意的だとはとてもじゃないが思えない。 「今日は一緒に帰れるよね」 「……それは……」 「邪魔だ」 　玲からの問いに視線をうろうろとさまよわせ、それでもイエスと答える為に乾いた唇を開きかければ、背後から耳によく馴染んでいる低い声音が響いてきた。 「元はといえばお前が悪いんだろ。今日は帰すから、とりあえず席に戻れ。ＨＲが始められなくて困ってる」 　大雅の言葉に周りを見れば、教壇にはもう教師が居て、他の生徒も全員席へと座っているのが見て取れる。 「了解。宮本君には後でちゃんとお礼するから」 　この状況を分かっていたのか、すぐ引き下がった玲だけど、去り際に遥人の頭を掴んで耳元へ口を寄せてきた。 「逃げるなよ」 　これまで聞いたことの無いような、凄みを帯びたその声に……心底怯えた遥人の体は無意識のうちに震えだす。すると、背後から伸びた大雅の掌が軽く肩を叩いてきて、たったそれだけで少しだけれど、遥人の緊張の糸がほぐれた。 　そして、それから遥人の一日は、どうすればいいか分からないことの連続で――。 「帰るよ」 　放課後、鞄に教科書をしまっていると、頭上から声が響いてきた。途端、指先がカタカタ震えだすけれど、どのみち逃げ場はないのだから、もたもたしていても仕方がない。