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「ようやく顔、上げた」
告げながら、のぞき込んでくる綺麗な顔に、怒りの色は浮かんでいない。
だからこそ、帰宅した後が怖いのだけれど、こんな時は最悪を想像すれば間違いないと知っていた。
――あと、4ヶ月我慢すれば……。
成績を落とさずに、ここから離れた大学へ行けばこの状態から逃げられる。
大雅に言われたその言葉が、今の遥人の心の支えになっていた。
玲と一緒にマンションへ帰り、用意されていた私服へ着替えている間、彼は一旦自室へ入って着替えを済ませて戻ってきた。
ここに遥人の個室はないから、何をするにもこのリビングか、寝室の中で行わなければならないし、自分の私物がどこにあるのかさえ未だに教えてもらっていない。
「勉強する?」
どうすればいいか分からないから、鞄を持って立っていると、ダイニングテーブルを指差した玲が笑みを向けてきた。
これまでは、部屋に戻ると裸に剥かれ、バスルームへと連れ込まれるのが常だったから、何がどうなっているのか戸惑うばかりの遥人だったが、たとえ一時の気まぐれであっても、気が変わらないうちに頷くのが正解だと考える。
「もうすぐ中間だから……ね」
促されるまま椅子へと座り、教科書を取り出していると、斜め向かいの椅子に座った玲が頬へと触れてきた。
反射的に体を引けば、「猫みたい」と喉で笑うが、遥人から見れば彼の方が猫に近い存在に思える。
――豹みたいだ。
彼の優雅な立ち振る舞いに隠されている獰猛さは、遥人から見れば肉食獣の中でも豹そのものだ。
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