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「遥人の勉強が遅れたのは俺のせいだから、分からないところ教えてあげるよ」
「え?」
「俺、それなりに頭いいから安心して」
思わずこぼれた驚愕の声をきっと勘違いしたのだろう。口角を上げて告げてくるけれど、そんなことはもう知っている。
なにせ、この3年間テストの結果で彼に勝ったことがないのだ。
「ほら」
まるで違う人物のような玲の発言に驚いて、動きを止めた遥人の肩を促すように叩いてくる。
「あ……はい」
声に弾かれ慌てた遥人が教科書を開き俯けば、「頑張ろうな」と甘い声音が優しく鼓膜を揺らすから、今までにない事の連続に混乱はさらに大きくなった。
***
「だいぶ追いついてきた」
大雅の元から戻って5日目、日課となった勉強を終えると、立ち上がった玲が遥人の癖のある髪を撫でてきた。
「はい、あの……ありがとうございます」
この一週間、勉強を教え続けてくれた玲に違和感を抱いてはいたが、彼がいなければたった数日でここまで追いつけなかっただろうから、遥人は素直に礼を告げ、教科書を揃えて鞄にしまう。
数日一緒に過ごすうち、学年トップの玲が一体いつ勉強をしているか不思議になったけど、それを聞けるわけもなかった。
「じゃあ、今日は金曜日だから……勉強は日曜まで休みにしようか」
「な……なにを……」
「何って……分からない?」
首を傾げた玲の指先が、自分のシャツのボタンを外しはじめたことには気付いたが、状況をうまく理解できずに遥人は瞳を大きく見開く。
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