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「あのさ……大丈夫?」
「……え?」
「顔色がものずごく悪い。お腹、痛いの?」
心配そうな表情でそう尋ねてくる生徒の名前は、いったい何と言っただろうか?
考えてみれば玲の手中に堕ちて以来、彼以外に話しかけてくれる生徒はいなくなったのに、名前すら思い出せないなんて失礼なことだと遥人は思った。
「大丈夫。ちょっと痛いけど、じっとしてればそうでもないから」
前の席の生徒に向かい、笑みを浮かべてそう答えると、いつもはそれで納得をして前を向いてしまう彼が、「でもさ、本当に大丈夫? 顔真っ白だし、声も酷いし……」と、再び声をかけてくるからかなり顔色が悪いのだろう。
「うん。平気だよ。今回休みがちだったから、ちょっと頑張りすぎたみたいで……」
今日から中間テストだから、勉強に根を詰めすぎたのだと、説明しながら遥人の視線は僅かながらに泳いでしまうが、そんな変化に気付くことなく、「そっか、御園君成績良いもんな。とりあえず今日は2教科だから……ムリそうだったら俺の背中叩いていいからな」
と言うと、ウインクをしたつもりなのか、瞬きを数回してからそのまま前へと向き直った。
そんな彼の、自分ほどでは無いが小柄な背中を見つめ、人の良さが表情にまで滲み出していると遥人は思う。
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