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正直なところ、今日、玲からこんなことを命令される可能性は、低いのではないだろうかと淡い期待を抱いていた。
なにせ、時刻はまだ昼過ぎだけれど、今日はまだ木曜日だから、明日は一日学校がある。
「こっち」
そんなことを考えながらも、下半身を手で隠した遥人が玲の表情をチラリと見ると、冷たい瞳と視線が絡んで背筋を冷たいものが走った。
しかし、この状況で逃げ出すなんて出来ないことを知っているから、遥人は気持ちを抑え込んで玲の前まで足を進める。
「後向いて、目を閉じろ」
明らかにいつもと違う口調に、遥人は膝を震わせるけれど、少しでも彼の機嫌を損ねたりしないよう、命令通り背中を向けた。
言われたとおり目を閉じようとした刹那、視界を何かに遮られたから、反射的に振り向こうとすれば、背後から強く首根を掴まれ無理矢理前を向かされる。
「うっ……ぐぅっ!」
次の瞬間前へと押され、腹部がどこかへ打ち付けられ……息が詰まるほどの衝撃に、遥人の口から呻きがあがった。
「な……アゥッ!」
状況を把握するよりも早く腕を背後へと捻りあげられ、背後で肘がくっつくくらいにきつく両腕を拘束される。
「明日は休みでいい。テストの結果発表は来週だろ」
腹部へと当たる硬い感触に、ようやく状況を理解した。
今、自分は目隠しをされ、背後で腕を縛られた上、テーブルの上へ上半身を俯せに押しつけられているのだ。
「なん……ッ!!」
いきなりのことに「なんで?」と尋ねようとしたが、声は途中で打擲音にかき消され、続いて焼けつくような痛みが臀部へと広がった。
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