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「痛み止めを飲んだ方がいいな」  声と同時に横を向いている顔の前へと、彼の掌が差し出され、焦点を合わせて見ると、白い錠剤が見て取れる。 「口、開けろ。大丈夫、おかしな薬じゃないから」  唇へと指先が触れ、本当にそれが痛み止めなのか疑わしいと感じた遥人が顔を背けようとすれば、おとがいを強く掴まれてしまい無理矢理口を開かれた。 「ん……う゛ぅ」 「まあ、仕方ない反応だな」  入り込んできた長い指先が錠剤を舌の上へと乗せ、出て行ったと思ったところで、今度は急須のような形状の透明な器具の注ぎ口を突っ込まれ……抵抗する暇も与えず水が口内へ注ぎ込まれる。 「う゛ぅっ……ん」 「ほら、飲み込まないと溺れるぞ」  そして、行動からは思いも寄らない優しい手つきで遥人の背中を撫で擦り、そんなふうに言ってくるから、半ば自棄な気持ちになって遥人は薬を飲み込んだ。  堀田の真意は分からないけれど、きっと言うことを聞くまで彼は同じ行為を繰り返すだろう。これまでずっとそうだったように。 「なあソノ。お前、玲のこと嫌いか?」  なんとか水を嚥下して、遥人が呼吸を整えていると、思いも寄らない質問をされて流石に瞳を見開いた。  ここまでのことをしておいて、どうしてそんな質問ができるか分からない。 「聞くまでもないな……今の質問は忘れろ」  眉根を寄せてそう言いながら髪へと触れる長い指先が、記憶の中の玲と重なり、胸がギュッと締め付けられるような感覚に陥った。  ――どうして?  大嫌いなはずなのに、ふとした瞬間思い出す。そして、彼を思い浮かべたときに心の中を占める感情が、恐怖や憎悪ばかりじゃないことに遥人は泣きたい気持ちになった。  ――違う。マインドコントロールなんか、されてない。  玲からは、酷いとしか言いようのない行為ばかりを強要されている筈なのに、どういう訳かこの瞬間、甘い声音で注ぎ込まれる「好き」の言葉が頭へ響き、それをどうにか追い払おうと、遥人は枕に顔を埋めて首を小さく横へと振った。

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