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だから、こんなに優しく抱きしめられても疑心暗鬼になるだけで、豹変する恐怖に震え、怯えているくらいなら……いっそ酷くされたほうがマシじゃないかと思えてきた。
「……疲れた」
どれくらい、沈黙の時が流れ去った後だろう? ポツリとつぶやく声が聞こえ、頬へとキスを落とされる。
「今日は寝る。明日……聞くから」
「……っ」
途切れ途切れになった言葉と、すぐに伏せられた長い睫毛に、一瞬何が起こっているのか分からなくなってしまうけど……。
――寝た?
息をしているか不安になるほど静かな彼の寝顔を見つめ、これまでとは違った意味で遥人は激しく動揺する。
――まさか、ホントに?
玲の寝顔を目にしたことなど今まで一度も無かったから、これも何かの罠ではないかと考えてみた遥人だが……何も起こらずただ淡々と時間が経過するにつれ、本当に彼は眠ったのだと理解するに思考が至った。
――本当に……寝てる。
最初は彼が目覚めぬよう、息を詰めていた遥人だが、いつしか眠る彼の姿を魅入られたように見つめてしまう。
――疲れてる?
よくよく見ると、薄いけれども目の下に隈 ができていて、もともと肌の色は白いが、青ざめているようにも見えた。
――いったい、何をしていたんだろう。
こんな姿を目にしてしまうと、この3日間何をしていたのか気になってしまう遥人だが、そんな疑問を抱く必要はないと自分を戒める。
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