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 なにせ、今目の前で微かな寝息を立てて眠る男こそ、遥人を貶め苦しめている元凶そのものなのだから。  ――いまなら、もしかしたら……。  逃げ出すことが出来るのでは? と、遥人は思考を巡らせるけれど、もしもそれが叶ったところで、すぐに掴まえられるだろうと思い直してため息を吐いた。  ――こんなことが、前にもあったような気がする。  ふいに、青白い顔をしている玲が誰かの姿と重なるが……懸命に記憶を手繰り寄せても、思い出すことはできないのだから、そんな気がするだけだろう。  ――本当……綺麗だ。  起きているときは怖いだけだが、寝顔はどこかあどけない。無意識のうちに指が動いて、規則的な呼吸を繰り返す玲の頬へと触れてしまい、そんな行動をとってしまった自分に自分で驚いた。  途端に動悸が激しくなるが、長い間に植え付けられた恐怖からくる緊張感だと遥人は自分に説明づける。

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