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「……眠れない?」
「っ!」
様々なことを考えた末、ようやく落ち着きかけたところで、突然瞼を開いた玲が、遥人の体を胸元へ強く抱き込んだ。
続けて「寝ろ」と囁かれれば、最初こそ酷く狼狽したが、彼の鼓動を聞いている内、緊張は徐々に溶けていく。
――やっぱり……変だ。
それほどまでに彼へと馴染んだ自分の体を憂ううち、とうとう眠気が勝ってしまい、遥人は浅い眠りの縁から深淵へ落ちていくけれど――。
「必ず……迎えに……ずっと、一緒だから……」
薄れていく意識の中、入り込んできた微かな声が、本当に玲の放った言葉か幻聴なのかは分からない。
だけど、幻聴だと思った方が遥人にとっては都合がいいから、言葉の意味を考える前に遥人は思考にブレーキをかけた。
この時の遥人はまだ、玲について何一つ知ろうとしていない。
だから、翌日登校した教室で、定期テストの結果について、入学以来初めて玲が首位から転落したと聞いても、自分より下の4位だったと分かっても、たまたま調子が悪かったのだと考えるまでで思考を止めた。
もし、それ以外の理由について深く考えてしまったら……自分の中の何かが大きく変わってしまうと分かっていたから。
第三章 終
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