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第四章
【第四章】
「御園君、こっち」
講義室へと足を踏み入れると自分の名を呼ぶ声が聞こえ、遥人がそちらへ視線を向ければ、窓に近い席からこちらへ手を振る小柄な学生が見えた。
軽く手を上げ振り返しながら、彼の隣の席へと座り、人好きのする笑みを浮かべる男に遥人は挨拶をする。
「おはよう」
「おはよう。今日もいい天気だね」
すると、外を指さして答えた彼が、
「旦那は?」
と尋ねてくるから、遥人は苦笑いを浮かべ、
「この授業は取ってない」
ため息混じりに返事をした。
遥人がどんなに説明をしても、隣に座る真鍋誠は、ルームシェアの相手のことを旦那と呼んで譲らない。
だから、無駄なやり取りを避けるため、遥人が普通に答える内に、彼の中では恋人同士と認定されてしまっていた。
「そっか。確かに学部が違うから、取る講義も変わるよな」
なぜか慰めるような言葉を掛けられ、遥人は反論したくなるけれど、きっと言っても無駄だろうから頷くだけの返事をする。
すると、それをどういう意味と取ったのか「元気出せよ」と告げてくるから、呆れるよりも可笑しくなって遥人は思わず吹き出した。
彼、真鍋誠とは、高校時代からのつき合いだ。
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