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 その日の夕方、いつものように大きなバッグを肩へと掛け、自宅へと向かい歩いていると、ふいに背後から伸びてきた手が、鞄を下から持ち上げてくる。 「っ!」  驚きに息を詰めた遥人が、咄嗟に体を反転させれば、そこにいたのは、先ほど真鍋から“旦那”と呼ばれた人物だった。 「今帰りか?」 「あ……はい」 「少し遅かったようだが」 「真鍋君と課題やってて、それで……」  いつもは多少遅くなっても、何も聞いては来ないから……遥人は少し首を傾げるが、「行くぞ」と短く告げられれば、思考はすぐに切り替わる。自分よりかなり身長の高い彼が隣へと並んできて、促されるまま一緒に歩道を歩き始めるが、会話らしい会話は無いのが当たり前になっていた。  だけど、それを気にさせる圧迫感や緊張感はあまりない。 「……いい匂い」  沈丁花の香りがどこか遠くから風に運ばれて、思わず遥人がそう呟くと、少ししてから「そうだな」と、低い声音が鼓膜を揺らした。  遥人の隣を歩いているのは、高校時代同じクラスだった宮本大雅だ。

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