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学部は違うが同じ大学へ合格し、高校を卒業後、ルームシェアをすることになった。
こうも上手く事が運ぶとは全く思っていなかったから、数週間が過ぎた現在も夢じゃないかと思う瞬間はまだあるが、それでも日々、こうして普通の生活ができることによって、遥人の中での不安も徐々に小さなものになりつつある。
「飯は?」
「さっき……ファミレスで少し食べたので、大丈夫です」
「そうか」
そこで会話は一端途切れ、また沈黙が舞い降りた。
大雅が何を考えているか遥人にはよく分からないけれど、高校時代に置かれていた状況から抜け出せたのは、彼の存在のおかげだから、無口だけれど優しい人だという印象は抱いている。
なにより今の遥人にとって、普通と思える時間を過ごせていることが凄く幸せだった。
二人が暮らしているマンションは、都心にある大学へと徒歩で通える圏内にあり、以前玲と暮らしていたマンションよりは質素だが、大学生が住むにしては立派と言える建物だ。
オートロックのドアを抜けてエントランスへと入っていき、エレベーターで七階へ上がると、いつものように暗証キーで部屋の扉を大雅が開く。
このフロアには三つの部屋があるのだが、新築だからか二部屋はまだ空室のままと聞いていた。
広い玄関で脱いだ靴を、シューズクローゼットへ入れ、遥人はリビングルームへ向かうが大雅はそのまま自室へと入る。
これは、大雅の部屋が玄関を入ってすぐの場所にあるのに対し、遥人の部屋はリビングルームを抜けた奥にあるからで……大雅は一度部屋へ入るとあまり出ては来ないから、たまに外で偶然会えば、こうして一緒に帰宅すけれど、遥人にとっては一人暮らしとあまり変わらない生活だった。
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