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最初のうちはほとんど大雅と顔を合わせずにいたのだが、梅雨へと入った辺りで遥人が食事を作ると提案してから、大雅が家で食事をとる時は連絡が入るようなった。
――今日は何にしよう。
働く母を手伝うために、小学生のころから多少の料理はしていた遥人だが、レパートリーは安くて手軽に出来るようなものばかり。
最近は凝った料理も出そうと色々研究してはいるのだが、どれが大雅の口に合うのかは今のところまだ分からずにいた。
――とりあえず、夏野菜を炒めて、あとは……。
献立を考えながら、マンションへ向かう遥人の足取りは、自然と軽いものとなる。時刻は既に午後の六時を少し回っているのだが、夏の陽射しまだまだ明るく、遥人は汗を拭いながら、短い距離を急いで歩いた。
しかし、いつも通りに過ぎる筈だった一日は、マンションの前で立ち塞がった見知らぬ一人の男によって、思いも寄らない方向へと……流れを変えることになる。
「御園遥人君?」
突然声を掛けられた時、つい「そうです」と返事をしたのは、相手が危険な人物だとはとても思えなかったから。
「良かった。写真しか見ていなかったから、間違えていたらどうしようかと……驚かせてすみません」
身長は、高いとは言えない自分とほとんど同じくらい。年齢も同学年か少し上といったところか。白っぽいシャツにジーンズ姿で、いたって普通の学生といった雰囲気だ。
「何か……ご用ですか?」
訝しげに遥人が問うと、相手の男は慌てたようにポケットから何かを取り出し、こちらへ向けて差し出してきた。
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