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「お、おかえりなさい」
「ただいま」
玄関が開く音は聞こえていたのだが、一度自室で着替えてくるのがいつもの行動だったから、そのまま真っ直ぐリビングへと入って来たのに驚いた。
「今、出来るから、先に着替えでも……」
「……ああ、そうだな」
対面キッチンになっているから、入ってきた大雅と視線が正面からぶつかってしまう。いつものように無表情だが、どこか違和感を抱いてしまうのは、先ほど外で会った青年から聞いた話のせいかもしれない。
自室へと向かう大きな背中を見送る遥人の指先は、その動揺を示すかのように小さく震えてしまっていた。
――ダメだ。会ったばかりの人の言葉を、簡単に信じたら……。
簡単に揺らぐ己の心を窘めるように繰り返し、遥人は大きく息を吐き出して配膳へと取りかかる。しかし、振り払おうとしてみたところで考えることは止められず、それから大雅と食事をしたが、どの食べ物も味がしなかった。
「何かあったのか?」
そんな心を見透かしたように大雅が声を掛けてきたのは、食器を片付け終えた遥人が自室へ入ろうとした時で。
「いえ、何もないです」
「そうか? 俺にはそうは見えないが」
食事の後、大抵大雅は外出するか、自室へと行ってしまうのだが、今日は珍しくリビングにあるソファーで新聞を読んでいた。
だから、邪魔にならないようにと考え遥人は行動したのだが、どうやら自分と話すために待っていたということらしい。
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