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「でも、本当になにも……」  白鳥から聞いた話を信用するかは別として、会ったことは秘密にするよう口止めはされていた。  それを守らなければならない義理は無いのだが、一旦聞いた全ての情報を一人になって整理したいから、遥人は咄嗟に嘘をつく。けれど、いつもは無関心な彼が、どういうわけか今日に限って話を終わりにしてくれない。 「なら質問を変える。今日、誰と会った?」 「今日は、真鍋君と……課題をしてました」  饒舌な方ではないから、そう答えるのが精一杯で、うまい言い訳などまるで思いつかなかった。  互いに干渉し過ぎないから、上手くいっていたはずなのに……と、口に出しては言えないだけに、胸が苦しくなってくる。  そんな関係を彼が望んでいるのだと思い込んでいたから、毎日のように出掛ける大雅がどこへ行くのか気になっていても、尋ねることも出来ないでいたのだ。   「嘘を吐くのが下手だな」  立ち上がった大雅がゆっくりこちらに向かって歩いてくる。彼を怖いと感じたことはこれまで一度も無かったのに、無意識のうちに遥人の膝はカタカタと細かく震え始めた。 「……っ!」  振り返り、咄嗟に部屋へ入ろうとしたのは、威圧感に怯んだから。  逃げ込んでみたところで、何も解決しないことにまで思考が及んでいなかった。 「何を言われた」  頭一つ背の高い彼が、逃げ道を塞ぐように遥人の両側へと手をついて、ドアを抑えつけたものだから、ドアノブを掴んだ格好のまま動くことが出来なくなる。  それから、二人の間に流れた沈黙は、実際には一分足らずだったのだが……異様に長く感じた遥人は、緊張の余り立っていることも困難になり――。 「……バカだな」  目眩に体が揺れたところで、ため息を吐いた大雅がいきなり背後から体を抱き締めてきた。

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