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「こんなになるまで悩む必要なんか無い。お前は、俺を信じてればいいんだ」
耳元へ低く囁きかけられ、心臓の音が煩くなる。こんなに近い距離での触れ合いは、久し振りのことだった。
「何も考えるな」
シャツの裾から素肌へと触れた指先に、思わず遥人が体を捩れば耳朶に歯を立てられる。
「……っ」
この状況でなぜこんなことをしてくるのかが理解できず、だけど抗う勇気もないから、遥人は小さく頷いた。
"考えるな"と言われたことに、同意をした訳ではない。ただ、恩人である彼の言葉を信じたいと思ったのだ。
それ以降、誰に会ったか聞かれることは無かったが、ほとんど言葉を発しないまま、力の抜けた遥人の体を大雅は軽々と持ち上げて――。
「あ……ありがとうございます」
自分の部屋のベッドの上へと体を横たえられた時、ただ運んでくれたのだと思った遥人は彼を見上げて礼を告げた。
電気を点けていなかったから、部屋の中はかなり暗いが、リビングからの灯りがあるから全く見えない訳じゃない。だけど、大雅がどんな表情をして自分を見下ろしているのかは、逆光になってしまったせいで遥人の位置からは分からなかった。
「敬語はいい」
言いながら、ベッドの上へ乗り上げてきたから、驚いた遥人は息を飲む。Tシャツの裾をたくし上げてくる指を払おうとしたけれど、「動くな」と一言告げられ体が言うことを聞かなくなった。
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