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首に圧力を加えられたため、喉が潰れてしまったのだ……と、回らぬ頭でようやく遥人が理解すると、
「トイレなら連れて行ってやるよ」
告げてきた彼が耳朶をねっとりと舐めあげた。
「くっ……うぅ」
「ほら」
身体の上からシーツを剥がれて遥人は咄嗟に俯せになるが、そんな抵抗をものともせずに、彼は身体を抱き上げる。
「恥ずかしいの? もう何回も見せてるのに」
喉を鳴らして笑った彼に、薄い微笑みを向けられれば、植え付けられた恐怖の記憶に震えることしかできなくなった。
――どうして?
目眩を伴う混乱の中、疑問符ばかりが頭に浮かぶ。今、目の前にいる男は、海外へと留学中のはずだった。
「ああ、そうかごめん、遥人はビックリしてるんだね」
横抱きにした遥人へそう告げ、額へとキスを落とした彼は、「分かってる。ちゃんと全部説明するよ」と言いながら、広い室内を移動し始める。そして、廊下へと出た彼が遥人をトイレの便座へ座らせた時、目眩はさらに酷いものとなり、ついには吐き気がこみ上げてきた。
「大丈夫? 顔、真っ青だけど」
――も……ダメだ。
目の前に膝をついた彼が、こちらを見上げて指を伸ばしてきた刹那……胃をせりあがってきた感覚に、遥人の身体が痙攣する。そして――。
「う゛っ……うぅっ」
倒れそうになる華奢な身体を、逞しい腕に支えられ……胃液を吐いたと思った瞬間、目の前が白い色に染まった。
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