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「すぐに迎えに来れなくてごめん。だけど、もう……大丈夫……だから」  耳元でそう囁きながら、玲は遥人の肩の辺りへゆっくりと顔を埋めてくる。  それから……暫しの時間、二人の間を沈黙が通り抜けたのだが、そのうちずしりとした重みを体中で感じた遥人は、今がどのような状況なのかを回らぬ頭で考えた。  ――もしかして……。  少し身体を捩ってみるが、玲は反応を返さない。そればかりか、規則正しい静かな呼吸が遥人の耳へと入ってきた。  ――眠ってる?  最初はまさかと思ったが、少し身体をずらしてみても、制止されることはない。だから、思い切って自分を覆う身体の下から這い出れば、支えを無くした玲の身体がベッドの上へ横向きに倒れた。 「……っ」  一瞬、逃げ出すことで頭の中が一杯になった遥人だが、行動に移す直前で、急に意識を失った玲を置き去りにしてもいいのか迷う。  ――熱は……無いみたいだ。  結局、ベッドの端へと座った遥人は、恐る恐る玲の額に掌を当て、それから頬へと触れてみたのは、無意識のうちの行動だった。  ――どこかで……。  生気がまるで感じられない青白い彼のその顔に、強い既視感を覚えた遥人は、魅入られたように見つめてしまう。出会った頃から今に至るまで、怖いとしか思えないような相手だが、もしも病気で意識を断っているのなら、逃げ出す前に誰かへ連絡を取らなければならないと思った。

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