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『あぶないよ!』
『平気だよ』
不安げに叫ぶ少年の声と、それに答える自分の声。どちらの声も、変声期前の高めで澄んだものだけど、その片方が自分の声だと玲にはすぐに認識できた。
『でも……やっぱり、あぶないよ』
開けてきた視界の中に、木登りをする幼い自分の姿が見える。そして、そんな自分を心配そうに見上げる少年の後ろ姿。
――これは……夢だ。
見える映像が夢であることは、はっきりと理解できた。だが、見えている場面は玲の記憶の中に全くない。
――だけど、たぶん知ってる。
幼い頃、登っていた柘榴の木から転落し、その前後の記憶を綺麗に失った……という話は、主治医や家族、それに使用人や友人など、さまざまな人から聞いていた。だから、たぶん自分が今見ているのはその時の映像だ。
――なんで今頃……。
確かそのとき遊んでいたのは、忍だったと認識している。
ヘマをして、柘榴の木から落下したしたのは自分なのに、入院中、忍は何度も玲の見舞いにやってきて、その都度『ごめん』と謝った。だから、前後の記憶は戻らないけれど、忍と遊んでいたのだろう。
――わけが……分からない。
何故、記憶にもない昔の夢を自分は観ているのだろうか? しかも、『危ない!』と叫ぶ少年の声と、その小さな後ろ姿が、忍とは違う人物のように思えてくるのはどうしてだろう?
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