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真実がどうであれ、今の玲には関係のないことなのだが、認識と夢の僅かなズレに鬱屈とした気分になった。
「ん……」
だから、少しでもそれをクリアにしようと、意識をさらに深い場所へと向けようとした玲だったが、記憶の糸を手繰り寄せようとした途端、手の甲辺りにチクリと鋭い痛みを覚え、自分の意志とは関係なしに意識を今へと引き戻される。
「……んだ?」
「目が覚めましたか?」
すぐに耳へと入り込んだのは、耳馴染みのある声だった。
薄く瞼を開いた玲が、状況を理解するよりも早く、声の主は「倒れられたと伺ったので、処置をさせていただきました」と淡々とした声音で告げてくる。
「二時間ほどで点滴は終わりますので、それまで大人しく寝ていてください」
「ああ、そっか……俺は……」
遥人をようやく取り戻したのに、無様に倒れてしまったのだと、ようやく思考が至った玲は皮肉めいた笑みを浮かべた。
「春日、遥人は?」
見上げた先には老齢の医師と若い男が立っている。
寡黙な医師は、生まれてた時から世話になっている今泉家の専属医で、もう一人は、幼少期から玲に付けられている執事だ。年齢は三十代も半ばを過ぎているけれど、見た目が十歳以上若く見えるのは、身長もあまり高くない上に彼が童顔だからだろう。
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