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きっと、逃げようとしたであろう遥人を、春日は決して止めないはずだ。なにせ、玲が遥人に執着することを、彼は快く思っていない。だから、『逃げました』という報告の声が降りてくるのを待っていると、意外にも彼の口から出たのは「リビングで休んでいただいています」という答えだった。
***
「お待たせしました。処置が済みましたので、ご案内します」
「……っ」
頭上から掛けられたその声に、遥人はビクリと身体を揺らす。
淡々とした様子で紡がれる丁寧な言葉使いと、それとは裏腹な彼の行動に整合性を見いだせず、口は拘束されていないのに返事もまともにできなかった。
「失礼」
「っ!」
寝かされていた革貼りの大きなソファーの上から、身体がフワリと浮き上がり、自分の身体が抱き上げられたと理解できても、今の遥人には抵抗できる材料がなにも残っていない。
――こんなの……おかしい。
玲が突然倒れたあと、遥人は部屋のクローゼットの中を漁り、彼の洋服をいつくか取り出し、自分にとってはサイズの大きいぶかぶかの服を身につけた。
そして、まずは助けを呼ぶために、玄関の扉を開いたところ、すぐ目の前に見知らぬ男が立っていたから、驚きはしたがしどろもどろに今の状況を説明した。
――執事だって言ってた。
自らを春日と名乗り、礼儀正しく振る舞う男に、玲のところまで案内するよう言われたから、逃げるのであればそれからでも遅くはないと思った遥人は、彼を部屋の中へと引き入れ、寝室へと案内しようとしたのだが――。
『逃がすなと言われていますので』
自分より少し背は高いけれど、細身に見えた春日によって、背後から突然脚を払われた遥人は床へと崩れ落ちた。
そこから……まるで荷物を扱うような手さばきで腕を縛られた遥人は、両脚の膝もひとまとめにされソファーの上へと寝かされた。
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