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『すこし待っていてください』  そう遥人へと声をかけ、一旦部屋を出ていった彼が、戻ってくるまで一時間ほどが経過したように思われる。  その間、遥人はどうにか起きあがろうとしたけれど、その都度酷い目眩に襲われ結局なにも出来なかった。   「お連れしました」 「っ!」  部屋を移動した執事の男がそう誰かへと告げたとき、現実から逃避するために遥人は瞼を閉じていたけれど、「ありがとう」と答える声がすぐ間近から聞こえてきたから、諦めに近い感情によって心の中が支配される。  自分の身体がベッドの上へと寝かされたのも分かったし、背後から腹を抱き寄せる腕が玲のものだというのも分かった。  だけど、震えだした自身の身体を治める手段を遥人は知らない。 「2時間したら点滴を外しに来ます」  ここへと自分を運んだ男と違う声音が聞こえてきたから、思わず瞼を開いて見ると、品の良さそうな老齢の男が玲へと頭を下げていた。   「ああ、分かった」  それにぞんざいに答える声が、耳の裏から響いてくる。  どう考えても、縛られている自分の姿はこの空間では浮いているのに、それについては触れない彼らに強い違和感を抱きながらも、遥人は唾を飲み込んだ。  ここで助けを求めたところで無駄だろうと分かっているから、部屋を出ていく二人の姿を黙って見送るしかできない。 「まだ拗ねてるの?」

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