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 閉じたドアを見つめていると、腰を抱いている玲の腕へと力がこもり、身体を反転させられた。  なにをどう勘違いすれば拗ねてるなんて思えるのかと、遥人は内心憤るけれど、それは彼の顔を見た途端、わきあがってきた違う感情にかき消される。 「……あっ」 「なに?」  いつものように綺麗な微笑みを顔に貼り付けているものの、その顔色と目の下のくまは、隠しようもなく酷かった。  遥人から見て反対側にあるの腕からは、点滴の管がのびているから、きっと玲はかなり体調が悪いのだろうと想像できる。 「あの、すこし……眠ったほうが……」  まさか、自分の口からそんな台詞が出てくるなんて思わなかった。だから、恥ずかしくなった遥人が途中で言葉を止めると、「そうだな」の声と同時に強い力で身体を引き寄せられてしまう。 「起きるまで、遥人がここにいてくれるなら……」  この状況では逃げ出したくても無理だろうと遥人は思うが、それをそのまま告げることなんてできやしない。どんな言葉を返せばいいかと逡巡している僅かな間に、瞼を閉じた彼の口から微かな寝息が聞こえはじめた。  ――嘘……だろ?  背中へ回された腕の力が、少しだけ弱くなった気がしたが、だからといって、ふりほどくような勇気はとても持てやしない。

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