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なにせ、玲がいつ目を覚ますとも限らないし、さっきの執事も二時間経ったら戻って来ると言っていたとおり、この部屋からは出ていったけれど近くにいるかもしれなかった。
それに――。
――ねむ……い。
遥人自身も先ほどから、断続的な強い眠気に襲われている。
――きっと、今は……大丈夫。
この二日ほどの短い期間にさまざまなことが起こり過ぎたから、本来であれば慎重なはずの思考能力が麻痺しているのか? それとも、睡魔のせいで判断力が鈍ってしまっているのだろうか?
どちらにせよ、今は眠っても問題がないと、遥人は結論を出してしまう。
そうでなくても、両手両足を縛(いまし)められているのだから、どうすることもできない遥人が選ぶ道は他にはなかった。
『よく眠っているようだ。どうする? 起こすかい?』
『……いえ、久し振りにきちんとした睡眠がとれているようです。このままにしておきましょう』
――だれ?
そのまま眠りに落ちた遥人は、途中誰かが会話をしている声を聞いた気がしたが、夢から醒めるまでには至らず再び深い眠りに沈む。
――あったかい。
そして、母と過ごした幼少時代の夢を久々に見ていた遥人は、傍らにある温もりへと無意識のうちにすり寄った。
***
「うっ……んぅっ」
――な……に?
「……ると、はると、起きて。早く起きないと……」
「……う、あ……なっ!」
「おはよう」
下半身から背筋へと……這い上がってきた鋭い愉悦に、呻いた遥人が瞼を開くと、綺麗に微笑む玲の双眸と正面から視線が絡んだ。
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