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「遥人の兄さんは手強いな」
父の淫行をマスコミへとリークしたのは、遥人の兄の唯人だった。
そう、淫行の事実はあった。玲の父親は高い金銭で若い女を買っていた。だけど、その秘密を漏らすものなどいるはずがないと慢心していた。
「いや……俺の父親がマヌケなのか」
まさか、御園の孫に嵌められるとは思ってもいなかったのだろう。連絡を取った遥人の祖父には、こう報道が過熱していては、止めようがないと言われたらしく、玲が家へと戻ったときには珍しくかなり狼狽していた。
聞けば、御園の老人が察知するよりも早くマスコミが騒ぎだしたため、事前に報道を制止することは、彼の権力を以てしても無理だったらしい。
『父親の嫌疑が解けて良かったじゃないか』
先日、帰国した玲が老人のもとを訪ねたとき、応接室で出迎えた彼は、心の読めない笑みを浮かべてそう言った。
『この度は、父へご助力いただきありがとうございました』
父の信頼回復へと手を尽くし、相手を悪者に仕立て上げた末、醜聞を美談に変えた老人へと……玲が深く頭を下げれば、さらに彼はこう続ける。
『君の父親には申し訳ないことをした。孫が出来のいい後継者に育ったことは嬉しく思うが、時には世の中の厳しさを教えてやるのも愛情というものだ。そうは思わないか?』
『若輩者の私には、愛情のなんたるかは分かりかねます』
『そうか……そうだな。そういえば……君には遥人をやると約束をしていたな。戻ってきたなら迎えにいってやるといい』
協力は惜しまない……と、笑う老人の姿を見ながら、玲は彼が唯人へと向けた怒りの片鱗を感じ取った。
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