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 なにせ、用があるときはこちらの都合もお構いなしに、部屋に来るような男なのだ。  だから、きっとなにかあるのだろうと、身構えるのが正解だろう。 「うん。それだけど、ちょっと困ったことになった。俺たちが描いたシナリオ通りに動いてない」 「俺たちって……ほとんどお前が考えたんだろ」 「そんなことはどうでもいい。ソノが玲に捕まった」 「な……」  想像すらしていなかったから、大雅は言葉を失うが、目前の相手は思考が追いつく時間を与えてくれない。 「ちゃんと見張りもつけてたんだけど、一瞬で消えたらしい。だから、俺は御園唯人が攫ったものだと思ってたんだけど……」 「らしいって……俺は、確実に送り届けろって言ったよな。お前も送ったって言ってた。嘘ついたのか?」 「まあ怒るなよ。あの状況で消えたんだから、そう考えるのが妥当だろ。まさか、玲が日本にいるなんて思わなかったし」  困ったように微笑みながら、コーヒーを一口啜り、 「起こったことはしょうがない」 などと他人事(ひとごと)のように話す忍には緊迫感の欠片もない。  そんな姿に苛立ちを覚え、大雅は席を立ちたくなるが、本当の意味で怒れないことを分かった上でやっているのが分かるから……余計にたちが悪いと思った。 「……で? それだけなら家で話せば良かっただろ。なんでこんな場所に呼んだ」 「流石、俺の弟は勘がいい」 「やめろ。だいたい……遥人が玲に捕まったって、今度は御園唯人がちゃんと助けるだろ。それですべてが……」  話の途中で「シッ」と人差し指を立てられ、大雅は言葉を飲み込んだ。  彼が自分を弟と呼ぶ時、煽ることが目的なのだと分かっているはずなのに、いつも感情を制御しきれずに過剰な反応を示してしまう。  兄といっても忍の方がほんの数日先に産まれたというだけで、異母兄弟の彼と大雅が一緒に暮らしたことはなかった。

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