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「失礼」
伺うように目を細め、忍を見つめた大雅の耳へと、次の瞬間聞こえてきたのは、どこかで聞いたような声で――。
「お前……」
「いらっしゃい。まあ座りなよ」
「おじゃまします」
忍が隣の椅子を引き、促されるまま斜め向かいの席へと座った真鍋の姿を目に映し、関係性が見えない大雅は内心すごく驚いた。
――ああ、そうか。
だけど、すぐに思考を回転させ、この状況が生まれた理由を推測する。
一緒の高校だった真鍋は、大学に入ってから遥人と親しくつき合っていた。だから、大学を休み始めた遥人を心配したのではないか?
――だが、どうして忍が……。
そうだとして、忍と真鍋を繋げる線が見当たらない。しかし、自分とは違い交流範囲が広い異母兄だ。きっとどこかで繋がりを持っていたのだろう。
そう頭の中で結論付け、真鍋の方へと視線を向けると、高校時代は特段目立つ生徒じゃなかったはずなのに、印象が少し変わっているような気がした。
――垢抜けた……と言えばいいのか?
髪を茶色く染めた真鍋を見ながら大雅は考えるけれど、それも少し違う気がする。
高校時代は割とおちゃらけたようなイメージがあったのだが、それも行き過ぎたものではなく、あくまで普通の学生という印象しか抱かなかった。
――いったい、どういう……。
「時間が勿体ないから、単刀直入に聞かせてもらいます」
男にしてはやや高めだが、聞き取りやすい真鍋の声に、思考を一回止めた大雅が無言で頷き返したのは、同じ考えだったからだ。
はっきりと分かる言葉遣いの変化から、高校時代のどこかぼやけた印象をすぐに捨てた大雅は、真鍋は油断のできない相手という認識に切り替えた。
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