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――あとで……か。
自分よりほんの少し背の低い異母兄は、華道家元の息子としては、申し分のない資質と優雅さを兼ね備えており、穏やかに見えるその人柄から人望も厚く人脈も広い。
――表面上は、非の打ち所がないってところか。
全ての人が多少なりとも二面性を持っているが、忍のそれは極端だ。それについては玲もかなりのものだから、二人はどこか根本の部分が似通っているのかもしれない。
――だから……特別なのか。
そんなことを考えながらマンションへと戻った大雅が、玄関へ足を踏み入れた時、どこかでドアが開くような音が聞こえてきた。
このフロアに住んでいるのは自分だけだと思っていたが、知らないうちに誰かが引っ越してきたのかもしれない。
――俺には関係ない。
背後で自室のドアが閉まり、静寂が訪れる。
完全にドアが閉じてしまえば、防音だから外の音が聞こえてくることもないし、挨拶にも来ない相手なら、大雅にとっても都合が良かった。
一旦自室へ荷物を置いて、リビングへと移動してから、大雅はソファーへ腰を下ろして腕を組み、ため息を吐く。
視界の隅に遥人が使っていた部屋のドアがチラリと見えるが、あれ以来、汚れたシーツなどを捨てるために一度中へと入っただけで、それ以外の彼の私物には一切触れていなかった。
遥人を無理矢理組み敷いたのは、覚悟を決めての行為だった。だけど、後ろめたさが全く無いかと言われたら――。
「甘いな」
ボソリと放った自分の声が、やけに大きく部屋へと響く。自分で決めた事なのだから、後悔などしてはならない。確かに、遥人への情はわいてきていたが、忍が考えた計画を……優先するのが大雅の意志だ。
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