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  *** 「(たわむ)れが過ぎます」 「それ、いつの時代の言葉?」 「ふざけないでください」  くたりと力の抜けた遥人の細い身体を抱き上げて、バスルームへと向かおうとすれば、前へ春日が立ちはだかる。 「ふざけてなんかない」 「最近の玲様のやりようは、理解の範疇を越えています。私には、貴方が彼を大学へ戻すつもりが無いように見えるのですが……いかがお考えですか?」 「あるわけない。外に出したらまた奪われる」  思ったままを口にすれば、表情こそ変えなかったが、春日が息を飲むのがわかった。  彼が驚くのも無理はない。御園の老人は遥人を好きに扱っていいと言っていたが、その代わり……国内最高学府と言われる大学だけは、卒業させるのが条件だった。  どうやら、経済界で注目を浴びる御園唯人に、弟がいるという情報がマスコミにリークされたらしく、現段階ではそれだけのことで記事にされたりはしないだろうが、存在が知れてしまった以上、高い学歴はもちろんのこと、交友関係にも華やかさが必要という判断らしい。 「情報を流したのも御園唯人の策略だろう。単純だけど効果的だよな。周知させることによって遥人の存在を消せなくした。それを止められなかった爺さんは、また後手に回って苦虫を噛んでるんじゃないかな? それから……御園に私怨を抱いてるヤクザはなんていったっけ? まあ、名前なんてどうでもいいけど遥人は奴らの駒じゃない。な? 遥人」 「……う、うぅ……ん」  腕の中で浅い呼吸を繰り返している存在は、意識はほとんど飛んでいるけれど、玲の言葉に反応し、潤んだ瞳で縋るように見上げてきた。

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