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「髪、だいぶ伸びた」
スキニーパンツにカットソーというシンプルな服に身を包み、丈の長めのカーディガンを羽織ったところで、玲が髪へと触れてくる。この半年で髪も伸び、長いところは肩へと届いてしまっていた。
「決めた。今日は髪を切りに行こう」
アイマスクを手に取った玲が、それで遥人の視界を塞ぐ。以前であれば、少しの触れ合いで自然と体が強ばったけれど、今の遥人はその掌を優しいとすら感じていた。
「あっ」
「ちょっと我慢な」
ふいに体を抱き上げられ、遥人が小さな声を上げると、宥めるように薄い背中をトントンと軽く叩かれる。
ここへ来てから外へと出るのは三回目のことだけど、目的地へと向かう間はいつも視界を奪われた。
その理由は分からないし、聞いても答えてくれないだろう。
――だけど……。
深い場所へは踏み込めないけど、玲と話せるようになった。遥人が素直にしてさえいれば、彼は優しくしてくれる。
以前の彼とは同じ言語を使っているのに、全く会話が噛み合わなかった。だけど、今は――。
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