234 / 338

31

「玲じゃなかったらどうしよう……とは思う」  目隠しが取れるその瞬間まで相手が誰だか分からないのは、精神的にとても辛い。  だから、素直にそれを言葉にすれば、「ほかに誰がいるっていうの?」と笑った玲が、アイマスクを外してくれた。 「歩ける?」 「うん」  尋ねる玲へと返事をしながら、ワゴン車の外へ遥人は降り立つ。ここがどこかは分からないけれど、地下駐車場であることだけは流石に分かった。  広い割に利用している車は少なく、無機質で薄暗い空間は、どこか不気味な雰囲気がする。   「行こう」    掴まれた手を握り返したのは、得体の知れない恐怖心に胸が騒ぎだしたからだ。だけど、それが何を指しているかはこの時点では分からなかった。  ――気にしすぎ……だ。  すぐ目の前には、濃紺の外国車が停められており、いつもとは違うカジュアルな服を着ている春日が、後部座席のドアを開いて待っている。  薄暗いからといって、なにも怖がる要素が無い。 「おいで」  ――大丈夫、何もない。  そう自分自身へと言い聞かせながら、先に乗り込んだ玲に手を引かれ遥人も乗ろうとしたその時、空気を切り裂くような爆音が突如辺りへと鳴り響いた。

ともだちにシェアしよう!