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「馬鹿、近すぎだ!」  春日が珍しく大きな声を上げている……と、思った時には、遥人の体は宙へと吹き飛ばされいた。  掴んでいた玲の掌も衝撃によって離れたようで、状況がまるで飲み込めないまま、コンクリートの硬い床へと背中から体を叩きつけられる。  とっさに頭を抱え込んだが、落ちた瞬間は息が詰まった。 「……ぐぅっ」  それは、遥人にとっては長い時間に思えたが、端から見れば、ほんの数秒の出来事で――。 「遥人っ!」 「……い、れい」  薄く瞼を開いて見れば、車から降りて来ようとしている玲の姿がわりと近くに見えたから、そこまで大きく飛ばされた訳じゃないのだと……遥人はぼんやり考える。  こんな風に思考ができるのは、冷静だからという訳じゃない。まだ遥人には、現実をうまく把握しきれていないだけだ。 「遥人!」 「危険です。私が行きますから、下がっていてください」  車外へ出ようとした玲を制し、無理矢理中へ押し込んだ春日が内側からは開かないように、コントローラーでドアへと集中ロックをかける。  外出時には、いつも遥人が中へと閉じ込められていたから、その仕組みは知っていた。

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