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「大丈夫ですか?」
内側から窓を叩く玲の姿を見つめていると、駆け寄ってきた春日が傍らへ片膝をついて尋ねてくる。
「なに……が?」
いったい何が起こっているのかを尋ねようと口を開くが、話しを終える前に状況は慌ただしく変化した。
「あなたを傷つけるつもりはなかった」
充満している火薬の臭い。
どこか悲しげな春日の表情。
徐々に痛みを帯びる左脚。
そして、急速に近づいてくるエンジン音。
「すみません」
掴まれた右腕へと、チクリとした痛みが走る。
春日がなぜ謝罪するのかを尋ねようとしたけれど、唇を動かしている時間は残されていなかった。
なぜなら――。
「……っ!」
ブレーキの音を響かせながら、春日の背後に停まった黒い車から……フルフェイスのヘルメットを被った男が降りてきて、仰向けに倒れた遥人の体を抱きあげそのまま連れ去ったのだ。
「すぐ病院へ連れて行きなさい」
「分かってる」
ヘルメットの男と春日がそんな会話をしていたような気がするが、なぜか意識が急に遠のいて、瞼を開いていられなくなる。
「……い、れい」
意識の途切れるその瞬間まで玲の名前を呼び続けたのは、長い時間をかけて施された刷り込みの結果だろうか?
「れい……れ……い」
どんな感情で名を呼んだのかは、遥人自身にも分からない。
ただ、瞼が閉じるその寸前、最後に見えた玲の表情が、酷く辛そうに見えたから……傍へと駆け寄り抱きしめたいという思いが自然にわいた。
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