243 / 338

40

 仕方がないから点滴の管が繋がったままの右手を少し動かせば、「ちょっと待って」の声が聞こえて右腕を軽く掴まれた。 「あまり動かさないほうがいいんだ」 「でも……」 「うん。だから俺が見せてあげる。だけどその前に、これまでの経緯を話させて」  医師という仕事柄からか? 落ち着いた声と言葉遣いに、焦り始めた遥人の緊張がほんの僅かだが和らいだ。  動かせないという現実と、病室という場所を考えれば、言われなくても自分が負傷をしていることは理解できた。  ――そうだ、俺は……玲と車に乗ろうとしてた。  最後の記憶をたどり始めれば、自分でも驚くくらいに思考がクリアになってくる。  どうやら、今いる世界が現実で、さっきまでのが夢だったらしい。  ――あの時、音がして、それから……。  あのとき聞こえた大きな音はなんだったのか?  自分はどうしてここにいるのか?    その答えを、目の前の彼らは知ってる。      「分かりました」  覚悟を決めて返事をするが、その声は酷く掠れてしまい、か細いものとなってしまう。  それでも、彼らにはきちんと届いたようで、眼鏡の男は笑みを浮かべると、まるで子供を誉めるみたいに遥人の頭を優しく撫でた。  

ともだちにシェアしよう!