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仕方がないから点滴の管が繋がったままの右手を少し動かせば、「ちょっと待って」の声が聞こえて右腕を軽く掴まれた。
「あまり動かさないほうがいいんだ」
「でも……」
「うん。だから俺が見せてあげる。だけどその前に、これまでの経緯を話させて」
医師という仕事柄からか? 落ち着いた声と言葉遣いに、焦り始めた遥人の緊張がほんの僅かだが和らいだ。
動かせないという現実と、病室という場所を考えれば、言われなくても自分が負傷をしていることは理解できた。
――そうだ、俺は……玲と車に乗ろうとしてた。
最後の記憶をたどり始めれば、自分でも驚くくらいに思考がクリアになってくる。
どうやら、今いる世界が現実で、さっきまでのが夢だったらしい。
――あの時、音がして、それから……。
あのとき聞こえた大きな音はなんだったのか?
自分はどうしてここにいるのか?
その答えを、目の前の彼らは知ってる。
「分かりました」
覚悟を決めて返事をするが、その声は酷く掠れてしまい、か細いものとなってしまう。
それでも、彼らにはきちんと届いたようで、眼鏡の男は笑みを浮かべると、まるで子供を誉めるみたいに遥人の頭を優しく撫でた。
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