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 ***   「どうしたんですか? 険しい顔して。今になって迷ってる……なんてことはないですよね」 「いや、決めたことに迷いはない。ただ、アイツの気持ちはどうなんだろうと思っただけだ」  遥人の入院している場所からほど近くにある公園は、昼間は多少の賑わいがあるが、深夜の今は誰もいない。治安対策の一環からか? 見通しもいいから人が近づけばすぐに分かる。だからこそ、真鍋たちと会話をするにはうってつけの場所だった。 「遥人君の気持ち……か。それは、落ち着ける環境を与えられて、初めてゆっくり考えられるんじゃないのかな。なにせ、これまでがあまりに酷すぎた」  ベンチへと座り正論を紡ぐ男の名前は長瀬といい、御園に(ゆかり)のある医師らしいが、詳しいところは分からない。外見はかなり若そうだけれど、手術や入院設備の整う病院を経営しているあたり、きっとそれなりの経験を積んでいるのだろう。 「そうですね。今はとにかく治療に専念しないと」  横に立っている真鍋の声へと無言で頷き返したあと、目下の長瀬へ視線を落とせば、こちらを見上げた彼の眼差しと正面からぶつかった。 「とにかく、誠心誠意謝ることだ」  まるで心を見透かしたような長瀬の言葉に心が痛む。自分には、心を痛める権利などないと分かっていても、今回のミスは大雅の心に大きな陰を落としていた。 「まだ堀田君にはバレてないですか?」 「ああ、大丈夫だ」  忍は大雅が裏切るなんて、きっと思ってもいないだろう。だから、玲から遥人を拐ったことも、まだ知られてはいない筈だ。

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