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「お先、お前も入ってこい」 「あ、ビール」 「自分で出すからいい」 「……はい」  考えに深く耽っていると、いつの間にかバスルームを出ていた大雅から声を掛けられて、遥人は慌てて立ち上がる。  彼は首へとタオルをかけ、スウェットのズボンを履いてはいるものの、上半身は裸のままだから、いつも視線のやり場に困った。    「お風呂、いただきます」  急いで着替えを持った遥人が、バスルームへと入ろうとすれば、「お前の家だろ」と、喉を鳴らして笑う大雅の声が聞こえる。    逞しい彼の背中を横目に急いで中へと入った遥人は、何回見ても慣れない姿に頬が熱くなるのを感じた。  ――虎、大きい……虎。  温度を下げたシャワーの飛沫を浴びながら、遥人は記憶を反芻する。  一年前、初めて背中に彫られた虎を彼が見せてくれた時には、声も出せないほどに驚き、遥人は目を見開いた。  肩口から背中一面に描かれている和彫の虎は、今にもこちらへ飛びかかって来そうなくらいの躍動感と、見る者に息を飲ませるほどの美しさを兼ね備えている。    彼は言った。自分は今後、極道の道へと進むことになるだろう……と。  そして、気持ちを無視して遥人を抱いたことについて、申し訳ないと思っているが、後悔は無いとも言っていた。  ――忘れよう。過去のことだ。  どうしても、堀田の顔が脳裏を掠め、遥人は頭を軽く振る。遥人が怪我をした三年前、当時の大雅が直面していた危うい立場は説明された。  堀田と大雅は兄弟で、最後に大雅に抱かれた時、遥人が手首を縛られたのは、未完成だった彼の刺青を引っ掻かないようにという思惑からだと聞いている。

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