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「……ゆめ?」 「玲の夢、見るんだろ」 「れい? れい……」  なぜ彼がそれを知っているのかと疑問に思いはするけれど、考えるよりも一瞬速く、久々に聞いた男の名前に体がビクリと震えてしまった。 「悪い。怖がらせるつもりは無かったんだが……あれから3年、ここに来てから1年が経つ。長瀬さんは時が解決するって言ってたから、あえて名前を出さずにきたけど……今日も寝言でアイツの名前を呼ぶのかって思ったら、なんだか無性に腹が立った」  遥人を見下ろし淡々と話す大雅だが、眉間に深く刻まれた皺が、その心情を表している。 「……ごめ……なさい」 「寝言に責任なんてないだろ」  タオルをテーブルへ置いた大雅が、溜息混じりにそう告げてくるが、まさか寝言を聞かれていたとは思ってもいなかった。  なにせ、ここへ大雅が泊まるときは、リビングへと客用の布団を敷き、遥人は奥の寝室にあるベッドで一人眠っていたから。 「あの、もう、離してください」  再び露わになったペニスを掌で隠し遥人は言うが、そんな声など聞こえないふりで、大雅は担いだ左の脚へと唇を寄せてキスをした。 「俺が怖いか?」  問われた遥人が首を横へと振ったのは、本心からの行動だ。彼に抱いている感情は、恐怖というようり畏怖に近い。 「そうか。なら、まだ俺が好きか?」  傷痕にザラリと舌を這わせ、尋ねる大雅の表情が、最後に抱かれた時の姿と重なって遥人は唾を飲み込んだ。  大雅は……昔、遥人が彼へと抱いた恋慕の情に気付いているから、そのことを言っているのだろうが、今の遥人にはその答えが正直まったく分からない。  毎晩のように見る夢を、振り払うように日々の生活を必死に過ごしているだけで、恋心など抱く余裕は心の中に残っていなかった。 「わかりません。でも、こういうのは、止めて欲しい……です」 「なぜ?」 「それは……」

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