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「自分でなんとかって……お前、バカか?」
「そうかもしれない」
呆れたように呟く大雅の背中をそっと抱きしめた遥人は、その耳元へ小さな声で「ありがとう」と囁いた。
「せっかく、新しい名前まで用意してもらったから、自分から名乗り出るつもりはない。だけど、もう逃げたくもないんだ」
「お前……少し変わったな。けど、あの爺さんはそんなに甘くない」
「分かってる。けど、最悪は無いと思ってる。今なら、俺にだって取引材料を考えるくらいできる……と思う」
まだ頭の中には何の策も浮かんでいないが、遥人は大雅を納得させるため、懸命に思考を巡らせる。
もう未成年の時とは違う。
だから、遥人は一人の大人として、自分に責任を持たなければならないのだ。
「分かった。お前がそこまで言うなら、卒業までにはまだ日があるから、俺も一緒に対策を考える。本当は、無理にでも連れて行こうと思っていたが……それについても、もう少し考えてから決める」
平穏な日々が続いているから、危険に対する感覚そのものが鈍っていると大雅は続けたが、それに深く頷きながらも遥人の心は決まっている。
仮に、祖父や玲が自分を捜していたとして、それに怯えて暮らすのはもう嫌だった。
だから、自分はここで、これから先も一人で普通に暮らしていく。そして、大雅は遥人に囚われず、決めた道を進めばいい。
会えなくなるのはかなり寂しいし、辛い気持ちもあるけれど、自分がしっかりしなければ、大雅はずっと三年前に気持ちを置いたままだから――。
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