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来る途中にもこうして何度か尋ねられたが、秋山の持つ空気感が気遣いをあまり感じさせず、自分もいつかこんな風になりたいなどと遥人は思う。
「あの、今日は……ありがとうございました」
だから、地元へと向かう駅のホームへ着いた時、せめて思いを伝えようと遥人が大きく頭を下げれば、「そんなかしこまらなくていいよ。俺も、桜井君とゆっくり話せて楽しかった。まあ、ほとんど俺しか喋ってないけど……よかったらまた飲もうや!」と、笑いながら答えてくれた。
全てがうまく回っていく。そんな気がしてしまったのは、前向きに、明るく生きている秋山のおかげだろうか?
そんなことを考えながら、遥人が顔を上げたとき、背後から急に肩を掴まれて心臓がギュッと竦 み上がった。
「遥人?」
「っ!」
この声はよく知っている。
知っているけれどありえない。
だから遥人は振り返ることができないまま、目の前に立つ秋山へと縋るような視線を向けた。
「やっぱり遥人だ」
反応すらできずにいると、声の主は遥人の前へと回り込み、そして――。
「桜井君、知り合い?」
「へえ、今は桜井君っていうんだ」
いぶかしむように声をかけてきた秋山の方をチラリと見て、それから遥人の耳の近くへと小さく囁きかけてたのは、ここで出会う可能性など無いと思える人物だった。
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