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「……玲」 「偶然だね。驚いたよ」  笑みを象る薄い唇と、美しいとしか形容できないその容姿は、三年経っても変わらない。それどころか、久しぶりに目にしたせいか、凄味が増したようにも見えた。 「偶……然?」  喉が急激に渇いていく。こんなのは絶対おかしいと思う。地方へと向かうこのホームに、偶然、同じ時間にいるなんてことはどう考えてもありえない。 「桜井君、彼は?」 「高校時代の同級生……です」  繰り返された秋山からの質問に、なんとか返事をした遥人だが、動揺のあまり小さな声は震えを帯びたものとなった。 「久しぶりに会えたんだ。これから少し話せないかな」  柔和な笑みを浮かべた玲が、秋山へと会釈をしてから遥人に尋ねてくるけれど、その瞳を正面から見返すなんてとてもできない。 「指定席の特急券を買ってしまったから、今日はちょっと……」 「俺のことは気にしなくていいから、二人で飲みにでも行ってこい。こんなところで同級生に偶然会うなんて滅多にないことだろうし、積もる話もあるだろう。特急券は俺が持つから心配するな。どうせ明日は休みなんだから、カプセルかビジネスにでも泊まればいい」 「でも……」  秋山からの心遣いは、遥人にとって残酷だ。  思わぬ申し出に言葉を無くし、立ち尽くしている遥人を横目に、玲と名刺を交換した彼が、「イケメンですね。俳優さんかと思いました」と快活に笑いながら言う。  そればかりか、笑顔で握手を交わしたあと、「桜井君をよろしく」などと告げたものだから眩暈がした。  遥人のぎこちない態度を見ても、違和感をまるで抱かないほどに玲の物腰は柔らかなもので、誰もがそれに騙されることは嫌というほど知っている。  ――逃げられない。  ここから遥人が逃げ出すことは、不可能だと思われた。秋山に助けを求めたいとも思ったけれど、これまでのことを考えると、巻き込むことは避けたいと思う。

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