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 ――そうだ、大雅君に……連絡。 「先輩の許可も下りたことだし、行こうか」 「あっ」  特急列車がホームの中へと滑り込んだのとほぼ同時に、鞄を取り上げられてしまい、遥人は中からスマートフォンを取り出すことができなくなった。 「じゃあ桜井君、また来週」  電車へ乗り込む秋山へ向かい深々と頭を下げながら、ドアの閉まるその瞬間に……自分も電車へ乗れやしないかと考えてはみたものの、それが不可能であることは、自分が一番分かっている。 「その足じゃ無理だ」  しかも、遥人の思考を見透かしたように玲が小声で告げてくるから、途端に背筋が凍りつくような恐怖が心を覆い尽くした。  ――自分で……なんとかしないと。  閉まる列車のドアを見ながら、(ひる)んでいる場合ではないと、遥人は自分に言い聞かせる。玲のことは、自分自身で乗り越えるのだと先日大雅に言ったばかりだ。  けれど……まさかこんな場所で会うとは思ってもいなかったから、表面にこそ出しはしないが遥人は激しく動揺している。 「助けを求めなかったのは、利口だった」  肩から手を離した玲が放った言葉を聞きながら、やはりこれは偶然なんかじゃないと遥人は確信した。  秋山に助けを求められない遥人の気質を分かった上で、玲は姿を現したのだ。  ――ダメだ。冷静にならないと。 「鞄、返してください」  自分はもう、怯えて震えているだけだったあの頃とは違っている。そう自分に言い聞かせ、遥人が声を絞り出せば、「ダメ」と一言、抑揚も無く答えた玲は、遥人の腕を強く掴んで改札の方へ歩きはじめた。

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