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「なに?」
いつだって、遥人は周りに流されながら生きてきた。玲の元を離れる時も、本当に逃げ出したいと思っていたかと問われれば、答えに窮してしまうだろう。
あの頃、諦めと受動のなかで玲と過ごした半年間、恐怖とは別の感情が……確かに芽生えはじめていたのだ。
けれど、ずっとあそこに居たかったなどと思ったことは一度もない。自立して、自分の力で生きていくことが遥人の望みで、それを叶えられたのは……危険を冒して助けてくれた大雅や真鍋たちのおかげだ。
「……ちゃんと、話がしたい」
あれから、玲の上にも遥人の上にも同じ三年が過ぎている。その間、遥人は自分を立て直すことに精一杯で、玲が心配していることなど想像さえもしなかった。
そして今、再び対峙した玲は、強引だけれど遥人の話をきちんと聞いてくれている。ならば、冷静に会話することが出来るのではないだろうか?
「そうだな。話をしよう」
返事が予測と違っていたのか? ほんの少しだけ驚いたような表情を見せた玲だけど、すぐに穏やかな笑みを浮かべて抱きしめる腕の力を抜いた。
「到着しました」
そんなやりとりをしている間に目的地へと着いたのか? 振り返った春日に言われ、遥人は慌てて車外を見るが、どうやらどこかのガレージらしく、コンクリートの壁しか見えない。
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