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「どうかな。遥人は嘘つきだから」
「嘘なんかっ……んぅ」
誤解されるのは嫌だと思い、口を開いたその刹那、顎を掴んだ玲の唇に遥人は声を奪われる。
「……う゛ぅっ」
歯を食いしばる寸前に舌が口腔内へと入り込み、角度を変え、遥人の舌を絡め取るように蠢いたから、久々すぎる感触に……抗うことを忘れた体が、まるで電気でも流されたようにピクリピクリと小刻みに震えた。
「んっ……うぅ……」
耳奥のほうでクチュリクチュリと卑猥な音が響きはじめ、上顎をザラリと舐め上げられれば、忘れかけていた甘美な熱が徐々に体を侵し始める。押し退けようにも腕は背後で拘束されてしまっており、この体勢から立ち上がるのも不可能だと思われた。
だから……遥人はただ、彼の行為を甘受し続けることしかできない。
「う……うぅっ……ん」
――ダメ……だ。
このままでは、昔と同じ繰り返しになってしまう。
久しぶりの愉悦に体は流されそうになるけれど、思考まで奪われたくはないから、遥人は体を引くのを止め、思い切って前へと倒した。
「……っ」
これには玲も驚いたようで、キスはいったん終わりを告げる。逃げると思って掴んでいたから、自分に向かってくるとは微塵も思ってはいなかったようだ。
これにより、不意をつかれた玲の肩へと、顔を埋めるように遥人が凭れかかる格好となった。
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