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「逃げないから、手を……解いてほしい」
声が震えてしまわぬよう、少し大きめな声で伝える。きっと言っても無駄だろうと半ば諦めてはいたが、だからといって言わずにいたら高校時代と変わらない。
「しょうがないな」
すると、遥人の予測とは裏腹に、ため息混じりの声がしたあと、抱きしめてきた玲の手により手首の戒めが解かれたから……思いも因らないその行動に今度は遥人が驚いた。
「……っ!」
礼を言おうとした途端、シャワーの飛沫が降りかかり、温めの湯が遥人の髪と体を徐々に濡らしていく。
「遥人、手を上げて」
耳元へ低く囁かれ、遥人は声に従った。
インナーシャツを脱がされることは分かっていたが、逃げないと言った以上は腹を括ろうと遥人は思った。
それは、生半可な覚悟ではなく、これまでのように流されたり、諦めて決めたことではない。
これから遥人は玲に抱かれる。
さっきも彼に言ったとおり、こうなることは分かっていた。自分の下したこの決断が合っているのかは分からない。浅はかだと言われたら、反論なんてできないけれど――。
「玲、服が……」
「別にいい」
服が濡れると言いたかったが、途中で言葉は遮られ、シャワーをフックへ掛けた玲が立ちあがるのを視線で追うと、「立って」と短く命じられたから遥人ものろのろと立ち上がる。
「足、上げられる?」
どうやら、遥人もバスタブから出ていいようだ。
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