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「忘れちゃった?」
未だ痛々しい傷跡の残る左脚。
こんなに酷い傷を負わせた相手を遥人は想っている。
「許さない」
奥歯をギリリと噛みしめて、吐き捨てるように玲が唸れば、遥人の睫毛が細かく震えた。
「……俺は、物じゃ……ない」
「そんなの分かってる。物ならこんなに苦労しない」
必死といった様子で喘ぐ遥人に言葉を返した時、玲の中で張りつめていた糸がプツリと切れた気がした。
「だから、こうするしか手に入れる方法は無いだろう?」
淡々とした口調だが、語尾が僅かに震えているのに玲本人は気づかない。
遥人は自分を嫌っている。
それが、高校生だった玲が遥人に魅かれた理由だった。
けれど、それだけではなかったことを、玲は後々知ることになる。
「ずっと一緒って……子供の頃、約束した。思い出した時……だから遥人に魅かれたんだって分かった」
「……なに…言って」
「まあ、子供の頃の約束なんて覚えてないのが当然か。実際俺は忘れてた訳だし」
「あっ……あうぅっ」
思考が上手く纏まらない。思いつくままに言葉を発し、心の中で渦巻く感情を吐き出すように、玲は遥人へと腰を打ち付けた。
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