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目が覚めたら自分の部屋で、すべてが夢の出来事だった……なんて、そんなに都合のいい話があるわけはないと分かっている。
――起きたくない。
身体中に覚える痛みは過去に経験がある類のもので、当時の遥人は淫らに乱れてしまう自分が嫌いだった。そして昨晩も……覚悟を決めて抱かれたものの、結局愉悦に飲まれてしまい、記憶がかなり飛んでいる。
――でも、ずっとこのままじゃいられない。
正直酷く怖かったけれど、遥人は勇気を総動員して重い瞼をゆっくりと開く。と、薄く開けた視界の中に玲の端正な寝顔が見え、この時遥人は自分自身にも理解しがたい安堵にも似た感情を抱いた。
――眠ってる?
思わず伸ばした掌で、そっと頬へと触れてみるけれど彼が目覚める気配はない。
――この三年、ずっと……。
玲は遥人を探していたと言っていた。そんな言葉にほだされたわけじゃないけれど、本当ならばどうして彼は自分に執着するのだろう?
三年間、夜毎見ていた淫夢の中で、遥人は玲をはしたなく求め、何度も受け入れ続けてきた。
そんな夢を見続けているなど、助けてくれた大雅や真鍋に申し訳ないと思いながらも、夢の内容を操作することも出来ずに苦しみ続けていた。
最後に見た玲の表情が、今も忘れられずにいる。
それまでの玲は、薄い微笑みを常に浮かべていたけれど、あの時は……悲痛な叫びが聞こえそうなほど、その表情は不安げに見えた。
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