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 ――俺は、あのとき……玲を抱きしめたいって……思った。 「あのころ……俺の夢は、自分一人で……生きていくことだった。自分のことを、自分で決められるようになりたいって……ずっと思ってた」  昔、玲から『夢はある?』と訊かれたことがあったけれど、当時は答えられなかった。そのことをふと思い出し、遥人は小さく呟いてみるが、喘ぎすぎて掠れた声に答える者は誰もいない。 「最初、玲が怖かった。今も……怖くないっていったら嘘になる。ただ……もしかしたら、玲は俺を守ってたんじゃないかって……思う時があって」    この三年、玲や祖父に怯えながらも、浮かんでしまったその考えを手放すことができずにいたが、突き詰めて考えようともしなかった。確かめる術もなかったし、忘れて前へと進むことだけが恩返しだと思っていたから。   「話すことは無駄だって玲は言うけど……それは、玲がなにかから逃げたいから?」  以前の遥人であったなら、例え相手が眠っていても、こんな風に話すことなど出来やしなかっただろう。  しかも、玲は既に起きている。  触れた肌から微かに伝わる強ばりは、決して遥人の勘違いでは無いはずだ。 「高校三年の時、俺は絶望した。どこにも逃げ場がなくて、誰にも声が届かなくて、自分の体を変えられていくのが怖かった。もし、玲が俺を守ってくれてたんだとしても……どうしても、あの時のことは理解できない」 「……よく喋るようになったな」  ここで、ようやく瞼を開いた玲が遥人の手首を掴んでくる。強い力で引き寄せられ、玲の胸へと抱かれた遥人は小さく息を吐き出して、それから玲の顔を見上げ「玲と、話が……したいから」と、痛む喉から必死に声を絞り出した。  今、自分が黙ってしまえば、また同じことの繰り返しだ。 「どうして……俺が遥人を守ってたって話になるの?」 「それは……」  小さな欠片を拾い集めているうちに、もしかしたらと思っただけで、正直言って自信はない。

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