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 玲と遥人との間には、間違いなく辛い記憶のほうが多いはずなのに、こんな感情を抱くなんて、医師の長瀬が言っていた通り、玲から受けたマインドコントロールは未だに解けていないのかもしれない。 「春日にも騙された。遥人の居場所を知ってたのに、それを隠し続けてた。あの能面(のうめん)……バレても顔色一つ変えないし悪びれもしない」 「……玲、約束ってなに?」    なおも独白を続ける玲の背中をそっと撫でながら、遥人が疑問を声にすると、一瞬沈黙した彼は……遥人の背中を抱き返してから「教えない」と耳のすぐそばで囁いた。 「どうして?」 「遥人は覚えてない。けど、俺は思いだした。だから、俺は約束を守る。逃げたかったら逃げればいい……何度だって捕まえるから」 「っ!」  不意に耳朶を甘噛みされ、遥人の背筋を愉悦がじわりと這い上がる。「まあ、逃がすつもりはないけど」などと物騒なことを言う彼に、反論しようと口を開いたが、うまく言葉にならないうちに、後頭部をガシリと掴まれ唇をキスで塞がれた。 「……ん、ウゥッ……」  口腔へと入り込んできた彼の舌に内側をねぶられ、貪るような深い接合に呼吸を奪われ苦しくなる。  たまらず遥人は手を動かして玲の背中を数回叩くが、自分を抱く腕の力が更に強まる結果となった。

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