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今、玲は、ベッドの上で遥人の体を背後から緩く抱き締めていた。
自分の放つ言葉の全てに小さく頷き返す姿に、こんな話に意味などないのに、どうして遥人は知りたがるのか? と、内心疑問に思いながらも、玲は再び口を開く。
料亭は、宿泊も出来るようになっており、経済界の大物や政治家、官僚などが取引や密談などに利用する他、これは後から知ったことだが、体を使った接待などを行う場所にもなっていた。
「遥人と初めて会ったのは、離れの庭だった」
腕の中、驚いたように遥人の体がビクリと震える。
季節は初夏。庭の片隅にうずくまっている遥人を見つけて声をかけ、泣いていた彼が落ち着くまで待ち、それから二人で一緒に遊んだ。
料亭側と離れの庭との間には、木製の塀があったのだが、下の部分が五十センチほど空いていたため、遥人は入ってこれたのだろう。
「一日中、遊んだ。夕方になって柘榴の花を取ろうとした時、俺は足を滑らせた。頭を強く打ったみたいで、長い間、遥人と遊んだ記憶が抜け落ちてた。ちゃんと戻ったのは……大学に入ってからだ」
柘榴の木は、低い位置から枝葉が分かれているために、子供が木登り遊びをするには格好の木であったのだが、玲が落ちた後、近付くことは禁じられ、庭で遊ぶ時には護衛が木の前に立つようになった。
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