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腰のあたりを抱いていた腕がスッと離れ、ベッドが軋む音がする。玲が体を起こしたことは分かったけれど、遥人はそこから動けずにいた。
「帰っていいよ。今、春日に連絡する。クロークに服が用意してあるから」
いきなり変わった玲の様子に遥人は内心狼狽 える。
さっきの話が本当ならば……いや、きっと真実なのだろうが、子供の頃、遥人の目前で柘榴の木から落ちたのは玲だ。
罪悪感に耐えきれなくて記憶の外へと追いやっていたが、夢を見るようになってからは、思い出すたび絞られるように胸が痛んだ。
「玲」
帰って良いと言われたのだから、準備をして待てばいい。ついさっきまで遥人自身が最も望んでいたことだ。
なのに、玲の変化を感じた途端、遥人の心に迷いが生じ、だから思わず名前を呼んだ。
話はまだ終わっていないと遥人は思う。けれど、何を話せばいいのかなんて分からなかった。遥人は玲に自分の何を知っているのかと尋ねたけれど、遥人だって玲の事を何も知らない。
「玲」
呼んでも返事が聞こえないから、遥人は背後を振り返り、自分に背を向けスマートフォンを操作する彼へと這うようにして近付いた。そして――。
「待って」
彼の手首を背後から掴み、「逃げないで」と、伝えれば……驚いたように動きを止めた玲がこちらを振り向いた。
「逃げたのは遥人だろ」
想像どおりの返事を紡ぐ唇が、ほんの少しだけ歪められたのを今の遥人は見逃さない。
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